採鉱方法
鉱山道具(支柱員)
河守鉱山では、蛇紋岩と古生層の間に出来た鉱脈や鉱染鉱床から黄銅鉱・磁硫鉄鉱・キューバ鉱・銀などが採鉱されており、採掘方法にはいろいろな方法があったようであるが、鉱脈の採掘は「無充填打柱上向段欠採掘法」(注1)がとられていた。
無充填打柱式上向段欠採掘模式図
注1 無充填打柱式上向段欠採掘法
河守鉱山では、「無充填式打柱式上向段欠採掘法」が多く取られていた。鉱脈を効率的に採掘するため、余分な岩盤
をなるべく掘らず、いわゆるズリを少なくして、出来るだけ鉱石のみを掘り出そうとした方法である。
「無充填」とは、鉱脈を掘った部分を空洞のまま残すことで、後にズリや砂で充填した部分も有ったという。「打柱」とい
のは、岩盤の間に支柱(ボーズ)を、1.5mおきに打ち込むことで、これに割丸太(ヤギ)を敷き、掘削足場を作りながら上
向きに堀り上げていく。順番に下側の不必要となった足場(段)のヤギを撤去していく方法で「段欠」である。
下部の横(ヒ押)坑道から30m上の横坑道まで掘り上げると次の鉱脈を同じように掘削していくのである。
2 運搬
運鉱員は漏斗から手押しトロッコに鉱石やズリを乗せ、第6立坑のプラットまで運ぶ。鉱石やズリはここで分離されてリフトで地上に上げられ、鉱石は選鉱場へ、ズリはズリッパ(ズリ捨場)へトロッコで運ばれ処理される。
3 排水・通気
切羽があがるにつれ、配管保線員は削岩機にエアーを送り込んでいる水と空気(エアー)のホースを伸ばし、常に削岩機に水とエアーが行くように保線する。坑道内の湧水は5台のポンプで排水し、坑内通気は自然通気圧による自然通気で、局部的に通気不良の切羽にはプロペラ型扇風機で通気を行った。
採掘の作業手順は、第6立坑からリフトで採掘を行っている深さまで下り、30m毎に掘削してある横坑道(ヒ押坑道)から鉱脈に沿って上向きに堀り上げて上部横坑道まで到達していく方法である。
運搬系統図
坑内の一つの切羽で働くチームは、掘削員が1名、支柱員2名、運鉱員1名の4人で組む。
コソク棒
1 掘 削
掘削員は鉱脈に発破をかける穴を掘削機であけ、ダイナマイトを仕掛ける。発破は午後2時頃、作業最後に行う。翌日、支柱員はコソク棒で発破後の浮石落しを行い、削岩足場の支柱を入れ、棚や漏斗(鉱石やズリをトロッコに入れるジョウロ型の取り入れ口)を設置する。岩盤の悪い箇所には枠組み又は実木積を施工し安全を図る。
下記の表は、支柱員が使用する道具で、岩盤にチスやセットウを使い穴を穿ち支柱となる丸太(ボーズ)を組み込み、掘削機や掘削員の足場を作る。足場となる打柱(ボーズ)設置は巻尺で岩盤の間を測り、ノコギリで丸太を切り、長さを調整して岩盤に固定する。丸太を半分に割ったものがヤギで、棚や横木に使用する。
カンテラ
ハビロ
掘削は発破をかけながら上向きに鉱脈に沿って進み、10m、20mと高くなるため、掘削員や支柱員が上がり降りする木製梯子(3m)を繋ぎながら上部へ押し上げていく。爆破した鉱石が梯子の部分に入らないように板囲いをし、高くなるにつれ上に伸ばしていく。坑内の安全性は支柱員の技術にかかっており、掘削員・支柱員・運鉱員・配管保線員のチームワークが無いと事故につながる危険な作業であった。
カンテラ |
戦後しばらくは坑内の灯かりとして使用。円筒の下部にカーバイトを入れ、上部に入れた水をたらして発生させたガスを燃やして灯かりとした。後にはヘルメットに取り付けた電池式ライトになった。 |
セットウ | 岩盤に穴を穿つとき、チスや岩盤を打つ道具。銘が入っている。 |
探鉱ハンマー (点検ハンマー) |
岩盤を叩いて崩れないかを確認。発破をかけた後は注意を要し、高い天井は、長いコソク棒(2mほどの鉄棒)で浮石を落とした。 |
中ハンマー | ボーズ(支柱)の設置するときなどに使用。 |
バール | 釘を抜くときなどに使用。 |
チス | 岩盤に穴を穿つときに使用。チスを岩にあて、セットウで叩く。 |
のこぎり | 支柱の材料(ボーズやヤギ)を切る。 |
切れないのこ (ハイナラシ) |
土や岩にのびた木の根や岩に設置した材料を切るときに使用。 |
ハビロ(斧) | 支柱木材を削ったり、割ったりするとき使用。 |
巻尺(10m) | 岩盤の間や支柱材料の長さを測る。 |
釘入れ袋 | 支柱や板をとめる釘を入れる袋。 |
道具袋 | これらの道具をこの袋に入れて坑道に入る。着替え・弁当も持参する。黄色の袋はダイナマイトや信管を入れるものが決まっていた。 |